夏休みの読書

直接仕事と関係なく、また何かの原稿とも関係がない本を昼間の時間に読めるというのが、ちょっと長い休みの幸せ。今回は昨年から気になっていたが長いので読みそびれていた、2011年の直木賞受賞作「下町ロケット」を読む。

スローリーはご存じのように、中小企業が特許で大企業に対抗し、自社製バルブを日本製ロケットの部品に採用させて、ロケット打ち上げ成功にする、というものだが、弁理士としては特許に関係する部分を非常に興味深く読んだ。

ストーリーとは直線関係ないものの、一つ気になったのが特許弁理士は登場しないということである。たぶん、大企業の特許出願が、先行する主人公の中小企業の特許出願があったために認められなかったと報告にきた「三島先生」というのが弁理士と思われるが、極めて影が薄い。大企業との交渉前に主人公が巻き込まれた特許訴訟においても知財専門の弁護士のみが登場する。特許訴訟では、特許出願を担当した弁理士が代理人(知財訴訟の代理人資格を取っている場合)か補佐人として関与することが通常である。ストーリーとしてはよくできているが、肝心の特許の中身(先行権利とどの部分が抵触していたのか、などの詳細)は明らかでないので、この部分が書ける(あるいはアイデアを提供できる)のが特許専門の弁理士だと思う。

最後にロケットが飛ぶ部分、やはり感動した。

オレたちはやったんだ

こういう感動を味わえるのはモノづくりを直接やっている人たちなんだなあ、とサービス業の私はうらやましい。

次に、読書家の妹推奨の一冊、「八朔の雪ーみをくつし料理帖」。江戸物で女性の料理人がステップアップしていく物語。江戸物の料理物はちょっとしたブームで他にも出ている中、妹いわく、このシリーズがベストとのこと。

登場する料理のレシピが巻末に付いている。料理のレシピというのは保護はむずかしいが無体財産であり知的財産といえる。(文章になった料理のレシピには著作権があるが、アイデアは保護されない。俳句や川柳のように短くても創作性のある料理名は著作物と認められる可能性があるかも)

という無粋なことはともかく、「下町ロケット」と違う感動で涙が出たのが以下の部分。

おとりさまからの帰り、こうやって、あたりにある福を掻き寄せて、この熊手にくっつけて来たんだぜ。だから来年はお澪坊とご寮さんに、きっと良いことがどっさりさね

不幸の連続で、元奉公先の奥様と暮らす主人公の澪に、澪の性格や腕を見込んで雇っている蕎麦やの主人が寄せる無償の善意。トシ取ると、こういうのに涙腺がゆるみっぱなしなんである。

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知財がわかる、とは?

先週の自分の授業に、尊敬する知財弁護士にゲスト講師をお願いし、訴訟実務(主に差止め)について講義していただいた。授業のやり方は、まず冒頭、条文の基本的理解や民法(不法行為法)の特別法たる商標法の位置づけについて、ポンポン学生を指名して答えさせつつ、根本概念を理解させるもので、「普段、ちゃんと教えてんのか、オマエ」と私が問われているようで、学生も緊張したみたいだが、私も緊張してしまった。学生の反応は、根本概念がよくわかった、とたいへん好評だった。私も、弁護士と弁理士の視点が異なることを改めて実感し、自分の「知財のわかり方」というのが、目前の仕事の範囲に留まってしまいがちなのを反省させられた。

というのは、例えば、民法では金銭賠償が原則で、差止めが認められるということの方がスゴイ例外的なことなんだ、と言われると、もちろん知ってはいるが、普段の感覚では、商標法で差止めが可能だが、不法行為では差止めは認められない、という逆の視点になりがちである。こういう点、常に民法の方から見ている弁護士とは理解が根本的に違うと実感した。

その翌日、弁理士受験機関のベテラン講師である友人弁理士らと飲みつつ、ゲスト講義の話をした。私は、上記のように理解の視点が違うというより、そもそも「脳力」に差があるせいではないか(というのは、かの知財弁護士の頭のよさは私とは異次元の世界なので)、とちょっと思ってしまってもいたのだが、彼は絶妙に、「自分の講義でも、ゲスト講師は人気ありますよ」などど、そうではない方向に話をもっていってくれた。彼は、専門の特許以外に、商標も意匠も教えているのだが、そこでの彼の「知財のわかり方」というのは、第一義的に、知財法全般をともかく総ざらえして、受講者をとにかく弁理士試験合格のレベルまでもっていく、ということである。

要するに、いろんな「知財のわかり方」があっていいのかな、と。

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JAPAN BRAND

三連休とて、たまった新聞を見ていて、日経MJ12月17日号(昨年!)に、JAPAN BRANDの特集があった。JAPAN BRAND のサイトを見ると、スローガンは、Creating New Traditions。

http://www.japanbrand.net/

南部鉄器にしても、津軽塗りにしても、実用的ではあり、あるいは、伝統的な柄ではあるのだが、現代の日本の普通の家には合わないな、と思う。ちょっと前にデザイン展で、皇太子ご成婚記念のロイヤルコレクションと銘打った、深みのある青の津軽塗りを見つけた。これは従来の津軽塗りにはないモダンな色だと一目で気に入り、普段使いするにはかなり高価とは思ったが、夫婦箸を購入。伝統の技術を現代に合ったデザインに、という意味であれば、このスローガンは納得できる。

先週、伝統工芸を用いながら超モダンなデザインを展開しているデザイナーさんから、その知財保護について相談を受けた。私にはたいへんな才能に思えるが、技術を持っている職人さんからは、こんな柄ではできない、と一蹴されるとか。Creating New Traditionsには、Old Traditions側との闘いもあるのだと感じた。

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照明デザイン

日曜の昼、NHK11:30からの「食彩浪漫」という、有名人がお料理の腕を披露する、という番組をいつも見ています。自分も、こちらは地味に納豆ご飯の用意などしながら。

今日は、日本の照明デザイナーの草分け的な、石井幹子さんが、簡単ながら、これは使える、というレシピを紹介。

ホットプレートの上にザワークラウトを敷き、その上にソーセージを載せ、白ワイン(使ったのは、アルザス、リースリンクの白)をかけて蒸す、というもの。また、じゃがいもの上に溶けるタイプのチーズを載せて焼き、好みの薬味を載せる、という超シンプルなもの。さっそくマネしたくなりました。

石井幹子さんは、日本に屋外の照明デザイン(ライトアップ)という観念が存在せず、工業デザインという言葉が出始めた頃、パイオニアとして仕事を始められ、北欧から留学後、8年も仕事の依頼がない中、手弁当でライトアップの仕事を続けた、とのこと。また、Wikipediaによると、「オイルショックの影響で照明デザインは電力の浪費と受け取られ不遇の時期を過ごした」とのこと。

そして、今、「やっと自分が本当にやりたいことが見えてきて、またそれをやれる状況にもなったので、これからです」と語っておられるのには、到底足元に及ばないながら、自分もトシだなんて言ってないで、これからよ、と大いに力づけられました。

外国代理人と会って日本の印象を聞くと、「街がきれい」という答えが多く、また、先日、NHKの「英語でしゃべらナイト」で、米国のロックミュージシャンが、「東京と比べたら、ニューヨークなんて地味よ!」と言っていたのには笑えましたが、確かに東京の街のきれいさ、夜の美しさは誇ってよいと思います。東京タワーのライトアップには、とても暖かみを感じますが、これも石井幹子さんの作品のようです。

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学問か、実学か

知財教育の授業法、というゼミに参加して、自分としても知財の教え方、というのは試行錯誤中ではあります。

実務家教員に求められるのは、まず実務経験であり、実際の体験談に基づいた生々しい話、というのは、学生の興味を引くのに一番だとは思います。しかし、自分の体験談を語っていたのでは枯渇するのも早いと思われます。特に、実務を離れて教育に特化したとたんネタ切れ、ということになりかねません。

やはり、そこに何か実務を離れた普遍的な研究対象と、研究成果がなければ、知財教員としての地位はキープできないだろうな、というのが今の実感です。というか、努力目標です。

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口述試験の結果

今年の弁理士試験の口述試験の合格発表があったが、残念ながら私の部下(今年、論文試験に初めて合格)は、口述で不合格となった。口述試験の不合格者は昨年50名以上、今年は70名以上とのことで、自分の受験時代には、合格者100名中、1名といった極めてレアケースで、口述不合格者は大大ショックのことだったろうが、昨今の口述不合格者の立ち直りは早いようである。

私もかつて、最終合格の前年の論文不合格に大ショックの時に、当時の上司の弁理士先生に飲みに誘ってもらって、いつもとは打って変わって優しい言葉をかけてもらったのを思い出し、「そうだな、私も」と思い、彼を飲みに誘った。

彼はあまり感情を表に出さないタイプなので、ショックを隠しているのかもしれないが、そう落ち込んでいるようでもなさそうだった。しかし、このように口述の不合格者が多い状況では、今に口述に2回落ちる者(これはもう立ち直れないだろう)も出そうである。

そこで、彼には、口述試験の試験官とのやり取りを正確に再現して、どのやり取りがまずかったのかを精査するように言った。それを見たところ、特許は最初の問題で答えがスムーズに出ずに時間がかかってしまい、最後の問題まで行かず時間切れ(これは間違いなく×)。意匠はスムーズ。商標では、最後まできちんと答えたのだが、なぜか試験官が最初から非常に不機嫌だったとのこと。最初に条文をそのまま言わせられるような問題で、条文の文言に一部不正確な箇所があり、それを執拗に条文どおり一字一句違わないように言い直させられた(これで×2だったのだろう)。そのやり取りを見ると、「ここで落とす試験」になっていると言わざるを得ない。

その試験官は、条文が正確に言えない受験生が連続して苛立っておられたのかもしれないが、明らかに不適格な者しか落とさないというスタンスだったと思われる旧制度の口述試験とは全く違うスタンスである。部下の実務経験はたかだか1年だが、実務経験の全くない受験生も多い中、その商標の重要条文の趣旨は間違いなく理解している。弁理士としての適性を見るのに、緊張している中で、条文を一字一句正確に言える、ということに、どれほどの意味があるのかと思う。

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広告効果

サブリミナル効果を利用した広告はよく知られていますが(これは規制されている方向)、今個人的に興味がある認知科学の本を読んでいて、サブリミナルではないが、負のメッセージ(例えばKILL,DEADといった語)を入れ込んだ広告をすることで、それを目にした需要者は、意識レベルでそれを見なかったことにする、しかし無意識には広告メッセージは残っていることにより、サブリミナルと同じ効果が得られるという。

こういう報告を前にすると、最先端の認知科学の知識を駆使して「売れる」広告を作ることによって、たやすく需要者を誘導できるのではないかと、ちょっと寒々しい思いがします。これを突き詰めていけば、国民全体を誘導できる、統制国家も構築できそうです。ただ、このような研究もまだまだ発展途上であるようで、おそらくまだそのような段階には達しないでしょう。

しかし、昔読んだジョージ・オーウェルの「1984」を彷彿させるように、思想から何から全て統制されているのに、それを感じない社会ほどウソ寒いものはない。しかしあらゆる広告というのは、われわれを誘導しようと手を尽くしている、それがまだ発展途上、科学的知識不足、なので、広告手法、あるいは求人手法についての指南書が売れるのでしょう。この段階は、ある意味では、発展途上であって、しかも好ましいかもしれません。

何か決定的な手法が出れば、それは怖いことです。

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レシピも知的財産

日経8月21日(法務)に「レシピにも特許の可能性」という記事があり、特許と認められた料理レシピの「焼きカレー」というのを思わず確認してしまいました(特許第2691213号)。

「耐熱鍋にバターを塗り、その中にライスを入れ、その上にカレールーをかけ、更にその上に卵黄が中心になるように全卵を落とし、更にまたチーズを全体に降りかけた鍋ものを、オーブンにて全体を焼き上げた事を特徴とする焼きカレー」

「練りカレー」というのもありました。「炒めたたまねぎ、トマト、生姜、にんにくなどと共にカレー 粉で味つけした肉を混ぜ合わせた後、ヨーグルトを加え、圧力釜で短時間煮込みした後、味付けされることを特徴とする練りカレー」

しかし、特許出願して公開されてしまうと「秘伝」でも何でもなくなるので(肝心のポイントは秘す、という方法も取れるかもしれませんが)、営業秘密としておくべきと考える場合の方が多いかもしれません。

意匠では食品の外観を登録できますが、お店で出す盛り付け方に特徴がある料理、というのは市場で取引される物品とは言えません。不正競争防止法の事例で、店舗外観だけでなくメニューもまねされた、という主張がされたことがありましたが、メニューの名称がその店独自のもので、その名称のメニューと言えばこの店、というように認知されているとすれば、不競法の商品等表示として主張できる可能性があるでしょう。

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知財法務ゼミ

昨日はトップ知財弁護士による知財法務ゼミに出席。これから10月まで隔週開講。

受講者は企業の知財担当、弁護士、弁理士、そして理系、法律系、がバランスよく、と言えばそうだし、逆に言えば、社会人大学院の知財コースも同じですが、その様々な要請、視点をどのように取りまとめて、全員にとって有意義なゼミとするか、というのはなかなか困難に思います。

商標の研究会でご一緒しており、能力、人間性ともども大ファンの先生がどのように進めるのか、興味津々だったところ(突然、コワい先生となるか?!)いつもどおりの和やかでユーモラスな進め方でいらっしゃいました。

で、その後の懇親会でいつもどおり近くに寄っていって、○○先生節を聞かせていただきました。知財弁護士(弁理士も?)は、説得力あり、しかもウィットに富んで、クライアントに信頼感とともに安心感を与える、トークですね。

先生の第1回目の教えも、「自己紹介も(自分をアピールする)プレゼンテーション」でした。

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光沢、質感

昨日は不正競争防止法の改正について、経産省の説明会。

改正点の一つに形態模倣についての条文が明確化されたことがあります。商品形態の定義に「光沢、質感」も含まれることとなった点について、「意匠法の意匠の定義とは異なるのだが、具体的にどのようなものが該当するのか」という質問をされた大学の先生がいらっしゃいました。しかしながら、具体例は挙げられませんでした。

この点は私も興味があり、ちょっと前に、どのようなものが「光沢、質感」として保護が認められているのか判例を調べたところ(判例では以前から「光沢、質感」が保護対象に含まれることが示されています)、該当例はあまりなく、「質感」についてマグライトの外筒のザラザラ感、が唯一の例だったような。

意匠法における意匠が視覚を通じて認識できるものに限るのに対し、不正競争防止法では、触覚も含まれることは確かなようです。(「質感」といっても、見た目に影響するものに限る、との解釈も可能と思われたので)

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